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プロフィール

井出 祐昭(いで ひろあき)

ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュース設立。井出音研究所所長。
音に関する最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創生を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。主な音響作品として、新宿・渋谷駅の発車ベルシステム、表参道ヒルズ、愛知万博、TOYOTA i-REALコンテンツなど。
音楽療法の分野では、アメリカ最大の癌センターの一つであるThe University of Texas M.D. Anderson Cancer Center にて3年間にわたる臨床研究を行ったほか、理化学研究所との共同研究で化学と音楽の融合にも取り組む。特集番組に、NHK クリエイターズ・file、WOWOW ノンフィクションW「幸福音」、ANA「発想の来た道 #24」、著書に「見えないデザイン」(ヤマハミュージックメディア)。

音の研究所とは?

音楽の持っている本当の可能性を引き出したい。音楽で人の役に立ちたい。―そんなこころざしを井出音研究所は掲げています。私が取材で訪れたのは、見晴らしが良く閑静な場所にある”アトリエ”。ここには、研究者Researcherとアーティストartistをあわせたような役割を持つ”Researtists”が出入りし、音の新たな可能性を探っています。時に彼らReseartistsをまとめる指揮者のような立場だったり、時には自らが作曲家やアレンジャーとして音を作り上げる所長の井出さんにお話を伺ってきました!

ドレミファソラシドで泣いた。

目には見えないけれども、いつも私たちの周りにあるいろいろな”音”。井出さんは、「音を使って何かしたい」という思いに至った大きな二つのきっかけを話してくださりました。「ひとつは、中学生の頃、Jazzに傾倒していたときのこと。プロの演奏家の魂を揺さぶるようなシンバルの音を聴いたとき、音楽の持つ力に感動したんです。シンバルを四分音符で叩いているだけでも、素人の演奏と天才の演奏では全く異なって聴こえる。その二つの演奏は、実は時間軸で見てみると数ミリ秒単位ですごく近いところにあるんだけどね」。この気付きから「人の心をこんなにも動かすことのできる音楽のパワーって一体何なのか」と感じるようになったそうです。単純に空気を振動させて耳に来て脳に伝わるというような物理的なことだけでは説明のつかない、音楽の作り出す不思議なエネルギーに興味を持ったのです。


「もう一つのきっかけは、30歳くらいのときに高尾山のふもとの老人ホームへ音楽療法の研修に行ったときですね」。井出さんはその時の経験をつい昨日のことのように語ってくださいました。


「その老人ホームにいるのは寝たきりのような状態の人ばかりなんですが、そこの先生が『はいやりまーす』と言うと部屋からおじいさんおばあさん達が出てくるんですよ。ドラム、ピアニカ、タンバリン、ピアノなんかの楽器があって『はい、じゃあドレミやりましょう』ってまた言って、みんながド レ ミ ファ ソ ラ シ ド ってやったとたんにものすごく感激してね、涙がわーっと出てきてしまって。自分でもまさかドレミで泣くとは思わなかったんですが」。


ゆっくりでも一人ひとりが懸命に奏でるドレミの音。その瞬間、井出さんは「やっぱり音楽ってすごいな」と音楽の力を再認識し、「これを一生の仕事にしよう」と改めて決意しました。井出さんはその頃から今に至るまでずっと”音楽と医療”をやろうという使命感を持ち続けています。

電車の発車ベルは、鐘の音がヒントでした。

井出さんは、音を通して様々な”世界初”に挑戦します。その一つが電車の発車ベルの開発です。井出さんは、従来の「プルルルルル・・・」というけたたましい発車音ではなく、「注意喚起をするけれども駆け込み乗車を少なくして」とか「小さい音でも遠くまで届くように」などという相矛盾するような要望を受けて、新宿駅と渋谷駅の全く新しい発車ベルを開発したのです。その際にヒントを得たのは、お寺の鐘の音。何かを伝える警報音のうち、鐘の音は歴史的に淘汰されず何千年も残されてきています。「鐘の音を分析してみると、立ち上がりは鋭く破壊的な音だけれどその後に包容感のある残響音が続いているのが分かります。『怒りながら抱きしめている』みたいな相反する要素が合わさって一つの音色になっているんです」。


鐘の響きの構造を参考にして井出さんが開発した発車音。焦燥感をあおるのではなく、音によって駅にいる人々の精神的な環境の改善、つまり駅全体に流れる“くうき”を良くすることにもつながりました。


このような数ある挑戦のうち、井出さんが現在も長期的に取り組んでいるのは、人の体の細胞の微細な振動を音に変換する、理化学研究所との共同研究。「アポトーシスといって、人の細胞って実は常に生まれ変わり続けているんですが、その分子の振動を音に変換してみると、なんと、とっても音楽しているが分かったんです。まるで誰かが作曲したかのような」。なんと、私たちは分子レベルで音楽を奏でているのです!!歌いながら生きているとも言えるのかもしれません。

花にいい音楽を聴かせると、その場の雰囲気まで変わる。

今まで井出さんがデザインやプロデュースをしてきた中で特にご自身のお気に入りなのは、”花が歓ぶ音楽”。「2004年にパシフィック・フローラという花の博覧会の企画に携わったんです。僕は、”花のための音楽”をやろうと言った。花が主役なんだから、まずは人じゃなくて花が歓ばなきゃ」。そこで井出さんは、花に向けた音楽の制作を半年近く行いました。「花ってすごく正直だから、ちゃんと音楽の良し悪しに反応するんです。取りつくろったようなのとか、感情だけで頑張っちゃってるのとか、うその音楽は全部だめ。逆にこれはばっちりだっていう音楽を聴かせると、その場の空気が誰にでも分かるほど一気に変わる。そうすると、聖域というか天国のような空間が生まれるんです。音楽って、そういう場所に向かって、上を向いているものなんです」。


音楽は、宗教と同じようにどんな時代にも人が生きていく上で欠かせないものだと井出さんはいいます。「聴く人を感動させることはもちろん、言葉にならないものを音が表してくれたりとか、誰かとの人間関係を良くしてくれたりとか、心をきれいにしてくれたりとか、音楽にはまだまだたくさんの可能性が秘められています。そんなあらゆる音のポテンシャルを社会に解き放って、とにかく人の役に立ちたいんです。大きなことを言えば、新しい精神文化、音楽的な美意識のようなものをつくっていきたいと思っています」。

メッセージ

井出音研究所
所在地 所在地:東京都世田谷区
事業内容 音の持つ可能性を引き出すプロデュース
会社URL : http://www.shur.jp/

編集後記 取材 ・永岡さやか|Photo : 市川智也(from AgeHA graph)

私にとっては初めて知ることばかりの音の新たな可能性を、とても楽しそうにひたむきに語ってくださった井出さん。取材をしている私まで、すごくわくわくしてしまいました!目に見えないものであるがゆえ普段はあまり気に留めることもない、“音”というものの果てしないポテンシャルを感じました。

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