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プロフィール

山中博貴(ヤマナカ ヒロキ)

1979年 神戸市生まれ
2000年 大阪ヒューマンアカデミー デザイン学科卒業
2000年 建設会社 入社(設計)
2004年 グラフィックデザイン事務所 入社
2005年 (株)ヤマナカ産業 入社
2009年 黒皮鉄ブランド「aizara」創立

革ですか?いいえ、これ実は鉄でできているんです。

私がaizaraを知ったのは、知り合いの方が使っていた黒皮鉄で作られた名刺ケースです。

革にしては重いし縫い目が無くすごく丁寧に作られている感じがして、どうやって作られているんだろうと思いました。「これ、実は一枚の鉄でできているんだよ」と聞いた時、こんなに柔らかい鉄があるのかとビックリしました。機械によって大量生産されているのではなくひとつひとつ職人さんの手によって作られるのにも魅力を感じ、aizaraの創業者である山中博貴さんにお話を伺いました。

仕事を見つけていく中で、行き着いたのが黒皮鉄。

 山中さんは、家業を継ぐまでは、建築の仕事、グラフィックデザイナーと、作り手の仕事をしていました。祖父の代から続いてきたヤマナカ産業を引き継ぐきっかけとなったのは父親が体調を壊されたことだそうです。これまでの作る、表現するのに加えて経営にも携わらないといけない。入社当初は引き継いだ下請けの仕事がほとんどで、営業を行わず、新規の仕事がない状態でした。
そこで山中さんは自ら仕事を生み出すしかないと、スノーボード競技の設備の基礎を作ったりスポーツ用品の卸業をするなど、四年間ほど経営に試行錯誤しました。さらに当時は景気が悪く、なかなか上手くいかなかったそうです。

仕事を見つけるのに苦悩する中、素材としてずっと愛着を持っていた黒皮鉄に目をつけます。鉄に関わる人の中には昔から好む人は多かったものの、塗装をせず一度傷がついてしまうとごまかせないので製品にすることは避けられてきました。山中さんはそこに付加価値があると考えたのです。黒皮鉄の素材として持つ魅力を、多くの人に実際に手に取って知ってもらいたい。また、以前の仕事でものづくりの準備段階に携わってきたので、黒皮鉄を使って自分のデザインを形にしたいと思ったのです。

まだaizaraの名前もないまま、試しに黒皮鉄でカードホルダーを作り、東京の展示会に出展しようともちかけます。当初は「採算がとれるか分からない」と父親に反対されました。しかし、いくらお金がかかったとしても「どれだけ響くかわかるから」と東京への出展に意味があると押切ります。
内装にかけるお金がなく、人の目を惹く事はなかなかありませんでしたが、前を通る10人の内1人は振り返って見てくれる、お話を聞いてくれる。

「10人の内9人は興味がなくても1人が熱狂的になれる素材である」

展示会の最終日、東京のお客さんから「この黒皮鉄でトレーを作ってほしい」と初めて依頼を受けます。現在では東京はもちろん、過去に一度海外から発注を受けた事もありますが、この依頼が、いまでも山中さんのやる気の原点になっています。

こうして、後にオランダ語で『鉄』の意味をもつ”ijzer”という単語を参考に、aizaraという黒皮鉄のブランドが誕生しました。

 

僕たちのものづくりを知ってもらうために、発信していく。

 「経営する、ということに関してはまだまだ勉強中です」

これまでヤマナカ産業にいる人たちは営業を行うよりも、ものづくりに対して真摯に励み技術をつけてきました。しかし、山中さんはいくら素晴らしい技術を持っていても発信していかないと意味がないと考えました。
「今までの取引先はかなり上の世代の方ばかりでしたが、新たに取引先を得るためには、まずは色んな方に知ってもらわないといけない」
そこでSNSをはじめて、自分たちのものづくりを発信することで、これまでにはなかった若い世代のお客さんとも取引できるようになりました。

鉄工所と全く関わりがないはずの職種の方にも知っていただけたり、イベントで「aizaraを知っていますよ」とお声がけしてもらえることがモチベーションに繋がっているそうです。お客さん以外からの目があると、下手な事はできないと仕事に緊張感が生まれます。
「単発のお仕事が多い中、こういった新たな人との繋がりが生まれることはとても嬉しいし黒皮鉄を使って色んな職業についている方のお手伝いをしたい」と話します。

「黒皮鉄に特化したギャラリーを展開しているのは僕たちだけなので、本気を感じてもらえると思います」

ネットで製品やコンセプトの紹介をしてはいますが、それだけでは黒皮鉄の素材の魅力を発信するには足りません。お客さんに実際に見て触れてもらってその魅力を共有することで、aizaraのブランドイメージを判断してほしいと考えたのです。
他の鉄工所は費用の削減に目を向けている中、維持するのに沢山のコストがかかるのにも関わらずギャラリーを設けるところに、山中さんのaizaraに対する自信と覚悟が表れています。

なくてはならない作り手、にスポットを。

 「IT業界がのびている現在、鉄工所は古い仕事のようになってきています。不況になると、町の鉄工所が不況の弱者の意見という事でニュースの対象になります。僕はそれを腹立たしく思います。確かにきらびやかな職業では有りませんが、そのような対象にもならないということをもっと全面的にだしていきたいです」

黒皮鉄のパイオニアとして、また鉄工所に勤める一員として、「鉄工所=かっこいい」というイメージを植え付けたいと山中さんは考えています。ブランドとしてaizaraとヤマナカ産業を切り離すこともできますがそれをあえてしないのは、家業として長い年月続いてきた鉄工所に誇りを持っているからです。

「作り手の仕事は過酷な環境下で良い技術を求められる大変さの割には、なかなか表に出ないので注目を集めたいと思っています。彼らの大変な仕事があってはじめて私たちの生活が成り立つのです。そこに気づいてほしい、スポットが当たってほしいです。作り手、という職業に就きたいという人が増えたら嬉しいなと思います」

ものづくりの準備段階、形にする行程、製品を手に取る、というすべての過程を知っているからこそ、作り手の仕事にも注目してもらいたいのです。そして、山中さん自身は鉄の素材に関しての先駆者でありつづけたい。黒皮鉄と同じようにこれまで製品に用いられなかった鉄の素材を新たに生み出したい。黒皮鉄に触れるうちに鉄そのもののについての愛着がさらに深くなったのではないでしょうか。

編集後記 取材 ・林由里恵|Photo : ムクメ テツヤ(from 平塚正男写真事務所)

 これまでのわたしの中にあった鉄工所のイメージは、「寂れている」や「経営不振」などネガティブな言葉ばかりでした。しかし、取材を通じて、我々の生活になくてはならないものを丁寧に、心をこめて作っている職人達が丹誠込めて仕事をしている場所であるという印象に変わっていきました。ものづくり、に関わる人すべてに感謝をしていかないといけないと思いました。山中さん自身、とてもものづくりに対して信念を持っていてとても素敵な方でした。取材中も、娘さんの話などもしてくれてとても緊張がほぐれてリラックスして取材する事ができました。ギャラリースペースには打ちっぱなしの壁にたくさんのaizaraの作品が並んでいて、黒皮鉄のもつ素朴さを空間を目一杯使って表現されています。とても素敵な空間で、楽しく取材ができて良かったです。

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