株式会社パラドックス

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流行に流される人が
多い世の中だからこそ、
本質を言葉にできる力に
価値がある。

一橋大学大学院 教授

KEN KUSUNOKI楠木建

一橋大学大学院 教授

楠木建
経営学者。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授。専攻は競争戦略論、イノベーション。一橋大学商学部専任講師、同助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。著書に『戦略読書日記』(2013年 プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013年 新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年 東洋経済新報社)などがある。
INTERVIEW WITH KEN KUSUNOKI

成熟した業界において
戦略で稼いでいる会社が、
日本企業のモデルになる。

パラドックスと協業する意義について、改めてお聞かせ願えますか?

パラドックスとの協業は僕にとっても大きな意義があります。たとえばパラドックスと共通の知り合いである、野田豊加氏が代表を務める「プラン・ドゥ・シー」という会社がありますが、あのような会社がこれからの日本企業のモデルケースになるべきだと思います。外部環境のオポチュニティ(機会)の追い風をうまく捉えて稼ぐタイプの企業ではなく、自分たちの立ち位置をはっきりさせ、ユニークな戦略ストーリーを持ち、その結果として儲かっている企業。そんな会社を僕は「クオリティ企業」と呼んでいます。クオリティ企業こそがこれからの日本のモデルであり、そのことを世の中へ伝えていくことが僕の大切な仕事のひとつです。パラドックスに紹介してもらった「ワン・ダイニング」や「遠藤照明」は、まさにそのクオリティ企業です。これは、パラドックスのお手伝いをしたから出会った会社。自分にとっても勉強になる会社と知り合えたという点で、ありがたいことだと思っています。

クオリティ企業がもっと伸びていけば、日本が強くなっていくということでしょうか。

そうですね。ただ、伸びというのは通常売上高の増加と捉えることが多いと思うのですが、成長のための成長ではなく、価値をつくってそれがお客様に評価され、その結果として成長していることが大切だと思っています。(1)価値をつくったから(2)事業が大きくなる、という順番でものを考えていることが重要で、企業規模が大きいからいいわけではなく、かといってベンチャー企業がいいというわけでもない。企業が儲かるロジックで分類した時に自らの価値創造で儲けている企業に僕の関心があります。僕は「競争の戦略」という分野を研究しているので、これは僕の「好き嫌い」なのですが、一見儲かりそうにない、いわゆる成熟した業界において戦略で稼いでいる会社は魅力的ですよね。

「好き嫌い」という視点、よくわかります。パラドックスも我々と感性がマッチする、世の中に対して独自の社会貢献性を発揮している企業を「こころざし企業」と呼んでサポートしたいと思っています。

商売ごとも多くのことが、実は好き嫌いでしか言えないと思うんですね。善し悪しではなく。好きこそものの上手なれという言葉がありますが、ようするに「好きの娯楽化」です。はたから見ていると、あの人頑張ってるなと思うことでも、本人は「好きでやっているだけなんで…」と楽しんでやっているだけ。なのに人よりも何かができるようになって、結果的に人の役に立つ。つまり仕事として価値提供ができるということです。極論を言えば、努力しなければいけないと思った瞬間、向いていない。たとえば、野田社長を見ると、一目瞭然です(笑)。オポチュニティを捉えるには、時代の流行や外的要因を考えていかなければいけないので、好き嫌いは言っていられない。その点、クオリティ企業は自分たちの好き嫌いが事業に深く関連していると思います。

流行に流される人が多い
世の中だからこそ、
本質を言葉にできる力に価値がある。

不易流行という言葉がありますよね。その不易をとらえたのがクオリティ企業、流行をとらえたのがオポチュニティ企業かなと感じます。パラドックスのお客様にも不易を大切にする企業が多いですね。

これこそ、僕の好き嫌いなのですが、「これからは◯◯の時代だ!」という人があまり好きじゃないんですよ。世の中の本質はそんなに変わるものじゃない。例えば、井原西鶴が17世紀に書いた『日本永代蔵』という書物。あれもだいたいブルーオーシャン戦略と同じことを主張しているんです。商売の本質は時代を超越して変わりません。結局のところ普通の人間が普通の人間に対してやっているのが商売。本当に時代が変わるとしたら、それは人間の本性が変わる時だと思います。極端な話、目の前に美味しそうなものがあるのに、是非食べたくないと思う。ここまでいって本性の変化です。そういうことはあんまり起きない。人の本性なんてそうそう変わらないんです。だから、不易を大切にするということは、筋が通っていることなのです。

言葉にもそういうところがありますよね。本質をとらえた言葉と流行をとらえた言葉があって。この2つでは、言葉の寿命がずいぶん違います。

言葉はやっぱり大切だと思いますよ。不易で考えていかないと、言葉がどんどん軽くなる。軽い言葉が次々出てくる業界ってありますよね。でも僕は価値を感じない。人間は言葉じゃないと考えられないし、言葉がないと伝えられない。だからこそ、そこに本質を捉えている言葉がなければ、ぶれてしまう。流行に流される人が多い中で、パラドックスの言語化の力は不易を捉えるという意味で価値があるのだと思います。

そう言っていただけるとありがたいですね。パラドックスはこれからも、日本のクオリティ企業が独自の成長を遂げて、日本を、そして世界を元気にしていけるようにサポートをしていければと思っています。

早稲田大学の遠藤功教授が「成長期が終わった日本で、これから企業は巨大戦艦ではなく、駆逐艦、巡洋艦であるべきだ。体格ではなく、体質が大切になってくる」とおっしゃっています。全面的に賛成です。それこそがクオリティ企業。このような会社はグローバル化のポテンシャルがあり、世界でも成功していくと思っています。僕はクオリティ企業の役に立ちたいし、日本のモデルとしてプレゼンスを高めていきたい。この点、パラドックスとはやりたい方向性が一致しています。ぜひこれからも、協働をよろしくお願いします。