坂本光司 氏

INTERVIEW with KOJI SAKAMOTO

会社とは、関わるすべての
人たちが幸せになるためにある。
そんな当たり前のことを
ちゃんと当たり前にしたいんです。

坂本光司
さかもとこうじ

1947年静岡県生まれ。静岡文化芸術大学教授を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授。専門は中小企業経営論、地域経済論、福祉産業論、同大学中小企業研究所長ならびに静岡サテライトキャンパス長を兼務。日本でいちばん大切にしたい会社大賞審査委員長、人を大切にする経営学会会長、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長など、国・県・市の公務も多数兼任する。
徹底した現場主義で、これまで訪問調査、アドバイスをした会社は7000社を超える。著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)、「ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社」(ダイヤモンド社)、「強く生きたいと願う君へ」(ウェーブ出版)など多数。

世の中が変わり始めている。
企業を見る目が変わっている。

 企業の目的は業績ではなく、人を幸せにすること。会社は社員を大切にしないといけない。正しいことをやらないといけない……。経営の世界でほとんど誰も言わなかったメッセージを、私はずっと発し続けてきたわけですが、少しずつ変化の手応えを感じています。
 いかに儲けるか、なんて話は一切しない私なのに、講演の依頼もどんどん増えている。最近では、いわゆるブラック企業と呼ばれるような会社からも「会社に来て話をしてほしい」と呼ばれることもある。アジアの国々からも声がかかりますし、イタリアでも私の本を読んでもらっている。共感する人はまだ少数派かもしれませんが、確実に増えている実感があります。
 ただ、今後、関わる人を幸せにしなければいけないという当たり前のことを理解しないと、会社はもたなくなっていくと思います。なぜかといえば、人々の会社を見る目が大きく変わっているからです。働く意味をしっかり問うようになっている。
 いったい自分は何のためにこの世に生を受けたのか。そういうことを考えるようになっているんですね。今までは当たり前だと言われていたことに、疑問を感じ始めている。勤めている会社が大きな会社で給料が良くても、有名な会社で上場していても、そんなことは、実はどうでもいいことなんじゃないか、と気づき始めているんです。
 実際、メガバンクを3カ月で辞めて中小企業に入る若い人がいる。官僚から小さな会社に転じる人もいる。昔なら考えられないことが起きています。中卒なら7割、高卒で5割、大卒で3割が3年以内に辞めてしまう「七五三現象」は、いい加減な会社だから起きたのかと思われていましたが、今や大企業でもそうなんです。
 働く意味を考えているから。いい人生を送りたいから。世のため人のための仕事がしたいから。そのためにはブランド企業も捨てるんです。間違いなく、世の中は変わり始めています。

口とペンは、神様からのプレゼント。

坂本光司 氏

 私は若い頃、中小企業について調査したり、経営のアドバイスをしたりする仕事をしていました。たくさんの経営者にインタビューして、中小企業をめぐる厳しい現実について知りました。
 取引先からまたコストダウンを求められた。仕事がどんどん減っている。あの人に辞めてもらわないと会社が危ない。手形が長期でいつも資金繰りに窮している……。一生懸命に真面目に仕事をしているのに、理不尽な思いをしている会社が多かった。
 まわりの同僚は、「それが現実」「これが社会の仕組み」と思っていたのかもしれませんが、私は無視できませんでした。義務があったわけではない。でも、この人たちのために、役に立たないといけないと思ったんです。それで、企業同士を結びつけて仕事を融通し合ったり、資金計画のお手伝いをしたりするようになった。見て見ぬ振りができなかったんです。
 おかげでたくさん勉強もしました。もちろん、職場でも誰もそんな私の話に耳を傾ける人はいません。しかし、幸運なことに、私には書く力があった。口もあった。そこで、学会活動を始めるんです。雑誌に書いたり、本を書いたりするようにもなりました。すると、だんだん有名になっていって、書いた本が賞を取ったことで、いろいろなところから声がかかるようになった。
 私は、世の中の人は、みんな善人だと思っているんです。生まれながらの悪魔はいない。実はおかしいと思っていても、心の中に閉じ込めているだけなんです。ただ、私は神様から書く力、しゃべる力をプレゼントされた。これを使わないと私の存在意味はないと思ったんです。
 その後も、火の粉を浴び続けました。体制破壊ですからね。でも、何を言われても気になりませんでした。器が大きいのではなく、忙しいから気にしている時間がないんです(笑)。

悪は徒党を組みたがる。正義は徒党を組まない。

 そんな活動をしていると、次第に本当にいい会社と出会うようになっていきました。例えば、たくさん障がい者雇用をして、地域のために頑張っている会社。一方で、業績はいいのに障がい者は雇わないと宣言している会社もあった。手間暇がかかるから。環境がないから。雇う余裕がないから、と。残念なことでした。
 そして両社を比べると、明らかに前者のほうが雰囲気がよく、ポジティブなのです。業績は飛び抜けていいわけではないけれど、赤字ではない。こういう会社にたくさん出会ってわかったのは、人を大切にする会社は、結果として赤字にならない、ということです。好況であっても、不況であっても、一定以上の経営ができていたんです。
 本当にいい会社は、世の中にたくさんあったのに、なかなか表に出てきませんでした。やがて理由がわかりました。彼らは声を上げないんです。徒党も組まない。大声を出してこっちに振り向かせる、なんてこともしないし、政府陳情もしない。じっと黙って、正しいことをやっていた。これには頭が下がる思いでした。
 今はこう解釈しています。悪は徒党を組みたがる。正義は徒党を組まない。当たり前のことをやっているだけだと思っているからです。メディアも、インパクトが強くないと思うんでしょう。だから取り上げない。おかげで、存在が世に出なかった。だから、メディアに変わって、私が本で紹介することにしたんです。
 その一つが、『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)です。5巻までシリーズ化されて70万部を超えた。これだけ売れたのも、世の中が変わってきた証かもしれないですね。「よくぞ地元の誇りのこの会社を紹介してくれた」「日本にはダメな会社ばかりだと思っていたけど違った」「取引先として、私がこの会社は絶対につぶしません」……。いろんな反響が私のもとにもたくさん来ました。
 どうやって会社を探しているんですか、と問われることがありますが、私にはファンや分身とも言えるサポーターが2000人くらいいるんです(笑)。彼らが情報を提供してくれる。社員が「うちの社長が立派です」と手紙をくれることもありますし、取引先、仕入れ先、お客さん、学校の先生、役所など、いろんなところが紹介してくれる。だから、今では書きたい会社が800社以上になっています。

最初からそうだったわけではない。会社も人も変わることができる。

坂本光司 氏

 ただ、ひとつぜひ知っておいてほしいことがあります。本で紹介している会社も、実は最初から、あるいは昔からいい企業だったわけでは必ずしもない、ということです。いろいろなきっかけがあって、変わっていったんですね。
 授かった子どもが障がい者だった。両親の介護に自身が困った。火事で焼けた会社をみんなが助けてくれた……。いろんなきっかけの話を聞きました。東日本大震災で、自宅も全壊しているのに会社を心配して社員全員が駆けつけてくれた、と涙ながらに語った社長がいました。それこそ、私の本を読んだことで変わった、という社長もいました。
 会社も、人も変わることができるんです。社員を大切にできるようになるんです。そのためにも、立ち戻らないといけないのは、何のために経営をやるか、です。会社の目的です。それは、世のため人のためであり、社員のためなんです。
 そうすると、儲かるか、儲からないか、ではなく、関係者が幸せになれるかどうか、でいろいろなことを判断できるようになる。やるかやらないかが決められるようになる。すべての基軸を、関係する人の幸せに置ける。
 社員を幸せにしたい会社が、成果主義に奔走しますか。競わせて、心を荒ませたりしますか。2倍・3倍の急成長を目指しますか。会社の成長は、社員の成長の総和なんです。毎年、倍以上に成長なんてできるはずがない。もしそうなっているならば、多くの場合は、見えない誰かが犠牲になっているか、バブルです。そんな当たり前のことにさえ、気づかなくなってしまっているのです。
 会社は家族だと考えたら、家族のためを思うようになります。1日4時間も5時間も残業させたら、帰りが10時になってしまう。社員の一家団欒の時間を奪っているわけです。これがいかに多くの人を不幸にしているか。
 単身赴任も、子どもが義務教育の間はするべきではない。私は認めません。経営という名の下に、大人がやっていることで、けなげな子どもの心を苦しめていることに気づかないといけない。でも、これまではおかしいと声を上げる人はいなかった。異常が長く続くと、あたかも正常に見えるんです。恐ろしいことです。

理念は、どんどん磨いていけばいい。

 本当にいい会社には、経営理念を大事にしている会社が多い。経営理念とは、我が社の存在目的を社内外に示した宣言文です。もっとわかりやすく言えば、我が社は何を通して世の中のため、人のために貢献するか、ということ。経営理念がないというのは、目的がない会社と同じです。目指す方向がない。
 実際には多くの会社に理念があります。しかし、目的が不純な会社が多い。いかに大きくなるか、いかに儲けるか、いかに競合を蹴落とすか、いかに海外の安い賃金でモノを作るか……。そんな理念を掲げている会社もある。
 経営理念というのは、正しくないといけないんです。世のため人のためという匂いがプンプンするような理念が正しい。会社というのは、社会的な公器なんですから。そして、理念に基づいた指針、方針、戦略、基準が作られないといけない。また、評価も理念に基づいて行われなければなりません。
 一方で、時代に合わなくなった理念は、見直していけばいいと思います。環境が変わっているのに、無理に合わせようとするのもおかしい。会社は変われるんです。理念も磨けばいい。先代が作った理念を進化させてもいいし、自分が創業時に作ったものを深めてもいい。大事なことは、正しい理念です。自然の摂理に合った理念です。
 先日、ラジオ番組で5年後、どんなふうになりたいか、夢を聞かれました。応えたのは、5年後も社会が必要とする価値ある人間であり続けたい、ということ。相手からは「ちっぽけな夢ですね」と理解してもらえませんでしたが(笑)。
 5年前に立ち上げた「人を大切にする経営学会」は、いまや1000人を超える規模になりました。ゼミ生にも、私が培ってきたノウハウや人脈は、すべて伝えていきたいと考えています。墓場には持っていけませんからね。人を大事にする会社を増やすことで、少しでも世の中を良くしたい。それこそが、私のこころざしなんです。

坂本光司 氏

ライター:上阪徹(インタビュー内容は2018年1月現在の内容です。)

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※敬称略

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