山口周 氏

INTERVIEW with SHU YAMAGUCHI

マーケティングから、アートの時代へ。
語られるべきは、自分たちのストーリー。
本気で何をしたいか、という思いなんです。

山口周
やまぐちしゅう

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。
電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。
現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。

銀座で「のり弁」の店に行列ができている理由

とある会社が、2017年に開業した銀座エリア最大の商業施設で、のり弁の店を出しています。銀座でのり弁です。びっくりな選択ですが、これが連日、行列ができてすべて売り切れてしまう大人気の店になっているんです。  どうしてのり弁だったのか。社長様に聞くと、自社内で改めて「本当にうまいものは何か」という議論をしたのだそうです。そのときに出てきたのが、揚げ竹輪であり、醤油にひたしたおかかであり、のり弁でした。
 ところが、のり弁を出している店は、世の中にそれほどありません。コンビニにも置いている店は少ない。こんなにおいしいのに、食べられない。本当に自分たちで「これはうまい」と思うなら店を出そう、ということになったのだそうです。
 しかし、銀座の高級商業施設でのり弁です。冷静に考えてみれば、いったい誰が買うのか、と思ったはずです。銀座のOLが買うとは思えない。地方から上京してきた買い物客は買わないでしょう。中国からの旅行客もちょっと考えられない。
 もし、いわゆるマーケティングリサーチを行えば、間違いなく答えは"ノー"だったと思います。誰も買わない、と。ところが実際には、バカ売れしているわけですね。行列ができている。その社長様は言っていました。やっぱりマーケティングはダメだ、と。誰が買うのか、なんてことを考えていたら、この店はできなかった。自分たちが本当にうまいと思えるものを売っている店が世の中にないから、自分たちでやろうと思った。そうしたからこそ、うまくいったのだ、と。
 実はこれはアートと同じなんですね。アート作品には失敗はないんです。自分が描きたいものを描いているだけ。売れるものもあれば、売れないものもある。でも、売れないものが失敗なのかといえば、そうではない。大事なことは、本人がいい作品だと思うかどうかなんです。売れなくても、失敗ではないんです。
 それを売るためにPRをしたりして、マーケティングの機能を使うのはいい。しかし、市場調査をして「それは売れない」「こっちを売ったほうがいい」となると、これはそもそも主従が逆転していることに気づかないといけません。

同じビッグデータを使えば、同じ答えが出てきてしまう

 もともと会社もビジネスも、パーソナルな思いがベースにあって、それをより多くの人に届けるためにマーケティングがあったはずなんです。ところが今はマーケティングが主人ヅラしてしまっている。ビジネスを行う人の主体性がなくなってしまっている。
「こんなことができたらいいな」「面白いな」「痛快だな」「大儲けできる」ということを企画して、それに賛同する人が集まってやっていたプロジェクトが会社であり、ビジネスだった。
 今は、会社やビジネスを存続させることが目的になってしまっていることが少なくない。何かをやろう、ということから始まるのではなく、目的がどうにもはっきりしない状況が起きている。何のためにやるのか、欠落している組織や仕事がたくさんある気がするんです。
 そして存続させるために使われているのが、サイエンスです。徹底的に数字やロジックを活用することで、生き長らえようとする。しかし、同じビッグデータを使ったり、精緻なマーケティングリサーチをしたりすれば、結局、同じ結論が出てくるわけですね。
 一時期、携帯電話は二つ折りで同じようなボタンのついた端末ばかりでした。いろんなメーカーがあったのに、みんな同じになってしまっていた。そこに登場したのが、マーケティング調査など一切していないアップルのiPhoneでした。そしてこれがマーケットを席巻するわけですね。今はみんなiPhoneの形になってしまっている。
 アップルについて、イノベーションが凄いとか、デザインが素晴らしいとか、いろいろ言われていますが、私は本質が見えていない議論だと感じています。
 実際、アップルでこの数年、何かイノベーションがあったでしょうか。デザインは、他のスマホと比較できないほどに優れているでしょうか。そんなことはない。結局、アップル製品が支持されているのは、あの会社の持っている意味性のようなものです。スティーブ・ジョブズが作ったストーリーであり、パーソナリティです。古い言葉でいえば、ブランドイメージ。アップルという新しいパーソナリティが、ファンをスティックさせているんです。

山口周 氏

求められているのは、チャーミングなパーソナリティ

 今、デザインの議論がかまびすしくなっています。経営やプロダクツで、デザインが注目され、デザインバブルのようなものが起きている。たしかに日本のデザインは遅れていますから、追いかけようとしているのはわかりますが、頑張って追いついても、海外勢はすでに次のステージに行ってしまっています。それが、意味性であり、ストーリーです。
 このままだと周回遅れになってしまう。だから、ショートカットして一周飛ばして次に行くべきだ、と私は言っています。
 もとよりデザインはすでに品質と同じになってしまっています。日本製品は壊れない、とかつて言われましたが、今では中国製品もイタリア製品も壊れません。これは当たり前なんです。同じようにデザインがある程度、洗練されているのも当たり前になっている。
 お見合いにはステテコを履いて行っちゃダメですよ、とかつて言われた時代がありましたが、それは本当にステテコを履いて行っちゃった人がいたからです。でも、今は合コンにステテコを履いていく人はいない。だから、誰も言わない。
 これと同じで、デザインが洗練されているのは当たり前になっているんです。今さら、デザインのことを語ってもしょうがないんです。それよりも、求められているのは、チャーミングなパーソナリティです。何を本気でやろうとしているのか。どんなことが好きで、どんなことを求めているのか。それを熱く語れることです。
 合コンに行ったら、お洒落な格好をしているだけではダメなんです。チャーミングなパーソナリティでストーリーを語って楽しませないといけない。ところが、これができていない会社が多い。ビジネスの世界では、商品ばかり、機能ばかりが相変わらず語られる。それこそが、アップルとの違いを生んでいることに気づかないといけない。
 今、必要なのは、自分はどんなパーソナリティで、どんなことが語れるか、なんです。難しく考える必要はありません。生い立ちから語っていけば、ストーリーが見つかるかもしれない。語られるべきは、そのストーリーです。本気で何をしたいか、という思いなんです。

エルメスでは、マーケティングという言葉は禁句になっている

 これから注目し、ヒントにすべきは、ラグジュアリーブランドだと私は思っています。なぜならこれから、ビジネスはどんどんファッションブランド化していくからです。アップルが目指しているのは、まさにこれだと思っています。
 では、ラグジュアリーブランドは、どんなビジネスをしているか。シャネルは市場調査をするでしょうか。しないでしょう。ブランドポジションをもうちょっとこっちに、なんて議論は絶対にしないと思います。シャネルはシャネルらしさを貫くんです。
 エルメスに至っては、社内でマーケティングという言葉は禁句になっています。この言葉が嫌いなんですね。だから、使うな、と社内では言われる。人のパーソナリティは、「何を大事にするか」以上にむしろ「何が嫌いか、何を避けているか」に出てきます。エルメスを象徴する話だと思っていますし、ラグジュアリーブランドの考え方の表れでしょう。
 ビジネスで差別化を図るとき、機能的便益と情緒的便益があるとされます。ここまで情報化が進めば、機能的便益での差別化は事実上ないと言っていい。では、何で差別化するのかというと、情緒しかないわけです。ある種の匂いのようなもの。これこそが、パーソナリティです。
 ラグジュアリーブランドは特殊だから、などと思うべきではありません。世界の人事組織コンサルティングの間で話題になったニュースがありました。最近、アップルに入った役員2人は、いずれもラグジュアリーブランドの出身者だったんです。一人は、バーバリーという高級ブランドのマーチャンダイズの責任者でした。ITやPCの経験者ではないんです。アップルは、未来をよくわかっていると思いました。自分たちがやっているのは、すでにファッションビジネスだということに気づいているんです。
 ただ、ファッションビジネスというのは、極めて難しいビジネスです。だからこそ、しっかり研究しておく必要がある。実際、シャネルにしても、パリで生まれながら事実上の本社はニューヨークにあり、デザイナーはドイツ人のカール・ラガーフェルドです。
 伝統を守りながら、いかに革新も作っていくか。それは、市場調査からは決して見えてきません。自分たちのセンスだけで、これをやっているんです。いずれにしても、ラグジュアリーブランドのマネジメントは、今後のお手本になっていくと思います。

小賢しい計算をした人ほど、難しい状況に置かれている気がする

 これからの経営に求められてくるのは、自分自身に、あるいは自分たちの会社に改めて立ち返ることだと思っています。どんな人として、どんな会社として人々に記憶されたいのか。どういうことをやり、どういうことをやらないか。パーソナリティをしっかり与えていくことです。
 何か形容する言葉を見つけてもいい。おだやか、やさしい、怒りっぽい……。あるいは、メタファーを思い浮かべてもいい。例えば、のり弁、イカの塩辛、フレンチ……。言葉で定義するのが難しいのであれば、イメージでもいい。
 例えば、初夏の青空をバックに大きな木が映っていて、青々した緑の葉っぱが飛び出してくるような、そんな会社でいたい、なんて定義の仕方もあるでしょう。自分の持っているイメージを言葉でもビジュアルでも絵でも食べ物でもいいので、考えてみる。
 そして大事なことは、逆も言えること。こういうことはしない。こういうことはイメージじゃない。こういうことは好きじゃない。これが、パーソナリティをより強いものにしてくれます。そして、イメージはストーリーにつながっていきます。そのパーソナリティやストーリーを、何より大事にしていくことです。
 私自身、目の前に来た面白そうなことをやってきたら、今に至りました。美術史を大学で学び、表現に関わる仕事がしたくて電通に入りました。思わぬ形で営業担当になると、クライアントにかわいがってもらってコンサルティングのような仕事をすることになりました。それで、外資系コンサルティング会社に行きました。まだ、変わった人と言われた人たちが行く会社だった頃です。
 コンサルティング会社で知ったのは、サイエンスの世界で頭のいい人は世の中にたくさんいること、そしてだいたい同じ答えを持っていることでした。これは、大きな発見でした。ここにいても仕方がない、人や組織に関わる仕事のほうが向いている、と感じて今の会社に転じたのが、7年前です。  すると、欧米企業で経営者育成のために美術系の大学に人を送り込んだり、音楽学校にトレーニングに出すような話が聞こえてきた。これは昔取った杵柄で、ある程度わかるぞ、ということで、ぐるっと一回転してここに戻ってきたんです。
 学生時代から、計算はありませんでした。振り返ると、世知辛い計算をした人ほど、難しい状況に置かれている気がします。自分が好きだから、ではなく、世の中がそうだから、で選んだりすると、世の中からソデにされる。そんな印象がありますね。余計なことは考えないほうがいいんです。
 現在、日本には自殺者が毎年約3万人もいます。何かがおかしいんだと思うんです。ビジネスも大事だし、会社に行くことも大事かもしれない。でも、本来のその人らしい働き方や生き方と出会えていないことが、大きな原因の一つになっているように感じます。一人ひとりのーストーリーのあり方が問われているといえるのかもしれません。今後も、自分なりのフィーリングで気づいたことを、さらに世の中に発信していきたいと思っています。

山口周 氏

ライター:上阪徹(インタビュー内容は2018年1月現在の内容です。)

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