株式会社パラドックス

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志を「しょせんは綺麗ごと」
という人もいます。
しかし、「綺麗ごと」を
貫いた会社は強い。
それもまた、
まぎれもない事実です。

経営コンサルタント

DAISUKE KAWAI河合太介

経営コンサルタント

河合太介
長銀総合研究所、ワトソンワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)を経て、人と組織のマネジメント研究所、株式会社 道(タオ)設立。早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師。
専門は、リーダーシップ、チームビルディング、組織活性化、戦略としての企業文化。これらをコアテーマとした人材開発、エグゼクティブコーチング、ビジョンデザイン、制度設計。
1992年から(株)ファーストリテイリングの変革・成長支援を行う。その他、産業再生機構の大型案件をはじめ、大企業からベンチャー、中小企業に至る幅広いステージ、産業の変革・成長支援を人と組織の観点から行ってきた。28万部超のベストセラー「不機嫌な職場」をはじめ、著書多数。
INTERVIEW WITH DAISUKE KAWAI

経営は、正論。

「しょせんは綺麗ごと」「正論だけでは、飯は食えない」「時期尚早」。「志」について話すときに、よく聞くフレーズです。なんの根拠もないのに、パワフルな言葉が、世の中にはたくさんありますよね。「時期尚早」なんて「やりません」といっているのと、ほとんど一緒なのに(笑)。私が約30年程お付き合いをさせていただいてきた株式会社ファーストリテイリングの柳井さんは「経営は王道、正論しかない」とよく仰っています。
正論とは何か。柳井さんの言葉を借りれば「真善美が、すべての基準」。誰にとっても真善美を感じられることが、正論だと私自身も捉えています。もし誰かが得をしたことで、誰かが泣いていたとしたら。そこには真も善も、人としての美もない。一時的には利益が上がったとしても、真善美のないビジネスモデルには、必ず限界がきますよね。
正論ほど、王道ほど、実は貫くのが難しい。難しいからこそ、その道を突き進んだ先に誰にも負けない独自性がうまれるのです。

私たち日本人は、外の目をよく気にします。舶来ものにめっぽう弱くて、アメリカからやってきた成果主義の考え方をすぐに鵜呑みにしてしまう。一方で、長期にわたって繁栄している会社は、自分たちは何者なのかが、はっきりしているから他者の物差しは必要としていません。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。ファーストリテイリングの志は、何があってもブレることがないのです。事実、私は一度も柳井さんから「他の会社はどうしてる?」と聞かれたことはありません。

経営者の「上司」は、誰か。

経営者を筆頭に、リーダーを対象とした研修で、いつも尋ねる質問があります。「あなたの上司は誰ですか?」みなさん、一様にポカンとされます。けれども、高い成果を出している人に限って、「上司は、自分の志」と答えるのです。志を上司にしている方は、どんなに大変なことがあっても、折れたりしない。泣き言も言わない。志を実現しようとすると、自然と仲間も集まってくる。何十回、何百回と繰り返し志について仲間に語るとき、自分の声をいちばんよく聞いているのは、実は自分の耳なのです。仲間に語れば、語るほど、おのずと自分も奮い立たされる。つまり、成果を出すには、志を上司にするのが近道なのです。さらに、経営者が志を上司にすると、会社全体の採用力も上がっていきます。志に共鳴できるかどうか。入社する前に、ある意味スクリーニングができている。志に共鳴して加わったメンバーは、やはりちょっとやそっとのことで折れたりしません。本当の仲間になってくれるから、チームがパワーアップしていく。結果的に、組織全体もたくましくなっていくのです。

今お伝えしていることって、ご自分で体感いただかないことには、理解が難しいんですよね。それこそ「しょせんは綺麗ごと」だと思われてしまう。けれども、「綺麗ごと」を貫いた会社は強い。それもまた、まぎれもない事実です。

なぜ、日本にはいい顔をして働く大人が少ないのか。

私自身の志は、志ある組織や、志のある人の歩んでいく道を応援する。そして、それを自分の人生の道とすること。その志を忘れないように、会社名を「道(タオ)」にしました。私にとって最大のテーマが、多くの日本企業で横行している「志なき利益至上主義」です。自分たちがどんな存在でありたいのか。何を実現したいのか。どう社会に貢献したいのか。ものすごく根本的なところが欠けている一方で、ROEなどの指標でいい評価を得ることが目的になってしまっている。もちろん企業ですから、利益を出すことは重要です。けれども利益至上主義のまま突っ走った先に、一体何があるというのでしょう。いつまでたっても数字に追われるばかり。そんなマネジメントがなされていては、現場の社員が憂鬱な顔になっても当然ですよね。大人のそんな姿を見ると、子どもは夢をなくしてしまう。働くこと自体の魅力が薄れて、食べていければそれでいいという価値観がまかり通ってしまう。そんな社会の不都合に苛立ちを感じる人は、どんどん海外に出ていってしまう。これはあくまでも一例で、日本企業が抱える組織課題は、本当にさまざまだと思います。ダイバーシティマネジメントの問題だったり、「働かないおじさん」の問題だったり。けれども根本にあるのは、この「志なき利益至上主義」だと私は考えています。

志は、商品やサービスを強くする。

ここまでずっと「志」についてお話してきましたが、いきなり「志」を持ちなさい、と言われても、自分たちの仕事に「誇り」がないと社員には響かない。私は仕事に「誇り」が持てるかどうか、が最初のステップだと思っています。この「誇り」というのは、従業員満足(ES)とは、意味合いが異なります。一人ひとりが誇りを持てるようにするには、まずはお互いに感謝を伝えられる組織にしていくこと。当たり前のことだけれど、「ありがとう」をちゃんと言えるかどうか。褒めることの大切さに気づいて、承認文化をつくろうとしている企業も増えていると思うのですが、単純に褒めればいいというものでもない。「その髪型、似合ってるね」と褒められても、部下が嬉しいとは限りません。場合によっては、セクハラにだってなってしまう。私は一つひとつの行動への感謝や認知が重要だと考えています。認知というのは、よほどアンテナを張り巡らせて、相手をよく見ていないとできません。部下のことを本当によく見る。部下の話を本当によく聞く。そして、自分のことも見てもらう。お互いに認知をすることで、ようやく「粘り強く頑張ったね。すごかったね」と部下を褒めることができるし、部下も上司の言葉を、素直に受け取ることができるのです。こういう一つひとつの積み重ねから、「誇り」がうまれていくのだと私は思います。

本田宗一郎さんの右腕だった、岩倉信弥さんというデザイナーの方の言葉で「かたちはこころ」という言葉があります。一人ひとりが誇りをもって働いていれば、その心は形に、つまり商品やサービスに現れる。人間はみんな感じる力を持っているから、最初は価格で選んだとしても、お客さまは最終的には、形に宿る心を見抜いてしまう。だから、志を貫いている会社の商品やサービスは、強いのです。さらに、志が自分たちの指針になって、それに見合ったクオリティのものをつくろうと努力するから、品質もどんどん上がっていく。そうすることで、価格競争に巻き込まれなくなるし、お客さまも長くお付き合いしてくれる。志ありきで考えると、こんな素敵な生態系ができあがっていくのです。